全国農学系学部長会議

報道機関各位
お知らせ

2018年11月9日

全国農学系学部長会議からの声明文
~持続可能な未来を創るために~

全国農学系学部長会議※では,広く国民の皆様のご理解とご支援を頂戴したく、第139回会議(平成30年10月18~19日,函館市)にて採択された声明文を表明いたします。

※当会議は,大学における農学の教育研究の振興を図り、もって関連する産業と生活基盤の持続的発展に寄与することを目的として設置された、国公私立の66大学77農学系学部が加盟する団体です。

声明文は以下の通りです

温暖化に代表される地球環境問題が顕在化し、このまま進行すると地球環境の不可逆的な変化をもたらす可能性が指摘されています。気候変動は、洪水や土砂災害の多発だけではなく、自然環境に多くを依存する食糧生産に多大な影響を与えるなど、人類の生存基盤を危うくします。その原因は、人口の増加と生活の近代化に伴う化石資源の大量消費による大気二酸化炭素濃度の上昇が原因とされる温暖化にあります。そのような状況の中で2015年11~12月にかけて開催された第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)では、産業革命前からの世界の平均気温上昇を2℃未満に抑えることを目的に、先進国だけではなく途上国も含めて温室効果ガスの排出量を大幅に削減することを定めたパリ協定が採択されました。日本では、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が、大気二酸化炭素を吸収・固定した植物資源に注目した「フューチャーグリーン」を立ち上げ、温室効果ガスの排出量削減のための研究開発等の推進に向けた検討を始めており、農林業が主要な対象にあげられています。

国連は、人類社会の持続可能な発展のためにすべての国が取り組むべき目標として、持続可能な開発目標(SDGs)を採択しました。SDGsの17の目標には、飢餓と貧困の撲滅や経済成長、気候変動対策、海洋と陸の生態系保全など、ある目標の達成が他の目標の達成を阻害するようなトレードオフの関係にある目標が含まれています。SDGsの達成には、生物の機能を最大限に活用し、再生産可能でカーボンニュートラルな生物資源への依存度を高めることが重要な選択肢の一つです。しかし、生物資源への依存を高めることが生態系の破壊をもたらさないことが求められます。

生物資源に依存した人間活動への変革には、自然界から生物資源を取り出し、持続的に社会に供給するための科学を担ってきた農学が大きな役割を果たすことが期待されています。SDGsは、政府のみの活動では達成できず、企業等も含めた社会全体で取り組むことが求められます。農学系学部では、生態系・環境の負荷を低減しながら食糧や生物資源の増産を図るための研究の推進とそれを担う高度専門人材の育成を、他分野との連携や産学官民の連携を推進しながら取り組んでいます。農林水産業現場での農学知に先端的な情報科学が加わることによって、持続可能な農林水産業の技術開発の可能性が高まります。

持続可能な未来社会の共創には、将来にわたって技術革新を継続する必要があり、その原動力となることが大学、特に研究大学に求められています。しかしながら研究大学の多くを占める国立大学では法人化による運営費交付金の削減によって財政の悪化が進んでいます。研究費の外部資金への依存度が高まっており、社会実装をはじめとする短期的な成果が求められる一方で、運営費交付金への依存度が高い基礎研究やフィールド研究の継続が困難になっています。基礎研究は、イノベーションのシーズです。農学系のフィールド研究は、イノベーションの発想を得るきっかけでもあり、持続性を評価するための基盤でもあります。国立大学での財政悪化は、退職教員の後任人事の停滞を招き、若手教員ポストの急激な減少をもたらしています。そのことが博士課程進学者減少の一因となっています。技術革新を担う次世代の育成が危機的な状況にあります。工学系では博士人材の活躍の場が民間企業等にも広がりつつありますが、農学系の活躍の場は、まだまだ教育研究分野が主体です。博士人材が多様な分野で活用できる社会となることが、次世代の担い手育成には必要です。

私たちは、次の2点を社会と共に実現することを望んでいます。

  1. 国が、高等教育や高度専門人材の育成に責任を持って当たることが、日本や世界の課題解決に取り組むための第一歩です。大学院生や若手研究者が、好奇心に従って研究に取り組み、イノベーションが生まれる環境を再構築できる国立大学の財務状況の改善が必要です。
  2. 博士人材の活躍の場が、教育研究分野が中心であり、行政や企業などにはまだまだ広がっていません。SDGsの達成のためには、農学の思考力を備えた博士人材が社会で広く活躍することが必要と考えます。博士人材の活躍の場を広げることに産業界にも最大限の協力をお願いします。