―農・食・環境の再生を目指してー農学の新たな挑戦
2008年10月17日
今、日本の農と食が危機に直面しています。食料安全保障と食の安全・安心が脅かされています。食料の安定供給を担う農林水産業は,国民生活の基盤であり,土と水と緑豊かな国土の保全、国民の健康増進と社会の持続的発展に必要不可欠です。これらの課題を解決することが農学の新たな挑戦です。
私たち人類は、この希有な惑星「地球」に共生する多くの生命の連鎖のなかで生きています。食は私たちの生命の糧であり、農はこれを保障する人類共通の営みです。自然を敬い、感謝し、生命を尊ぶ民族の文化と力の源です。農林水産業が滅びて栄えた国はありません。一方わが国の科学技術政策においては、農がその役割にふさわしい地位を与えられているとは言えません。
農学の使命は、農と食と環境の再生に確たる根拠を与える学術の振興です。担い手の高齢化と後継者不足、米の生産調整による耕作放棄地の拡大が先進国に例を見ない食料自給率の低下を日本にもたらしています。美しい田園とそこに生活する人々を失うことは、この国に息づいてきた文化、伝統や生き方を失うことです。
直面する危機の根源は食料の過度な海外依存にあります。穀物及びエネルギー価格の高騰,気候変動、人口増加とBRICsの急速な経済成長など複合的な要因により食料需給が逼迫し、食料を金で購えない食料争奪の時代が到来する危険が増しています。食に携わる者すべてがもつべき倫理の欠如が食の安全への信頼を失わせています。二酸化炭素排出量の増大による人為的な地球温暖化も農林水産業と直結した人類が直面する最大の問題です。
農学は、こうした諸問題を解決し、健全で力強い農林水産業を再生するための技術開発と人材育成に加えて、政策につながる提言を世に発する責任を負っています。世界の持続的食料生産と地球環境保全に資する農林水産関連分野の基礎と応用の研究を進め、その果実を世界に届ける必要があります。
全国農学系学部長会議は、直面する農・食・環境問題の解決に果たすべき農学の役割と社会的責任を認識し、農林水産業の再生による地域社会の活性化及び生物資源の高度利用による新たな生物産業の創成に向けた農学の課題に挑戦します。
●農・食・環境の再生に向けた農学教育研究の振興を通じて次世代のリーダーを育成します。
●食料増産につながる技術革新と農耕地の新たな利用法の開発に取り組みます。
●生物多様性の確保と生物資源に内在する生命力の活用技術の開発に取り組みます。
●食品の安全性確保に向けた技術開発と食育による食・健康知識の普及に取り組みます。
●高付加価値商品を生産・流通する新規生物産業の創成に向けた技術開発に取り組みます。
●「世界的な視野で考え,地域に根ざして活動する」をモットーに、国内外の大学、研究機関及び関連行政機関と連携し、人間志向・未来志向の研究開発を推進します。
●アジアをはじめとする海外の大学,研究機関との連携を強め、留学生教育に積極的に取り組みます。
●社会への継続的な情報発信を行い、対話を通じて農と食の倫理規範の構築に努めます。
●地域に蓄積された隠れた知識(暗黙知)を掘り起こし、活用するためのネットワーク作りと人材の育成を目指します。
●農・食・環境問題を総合的に解決するため、他学術領域との連携・協同を推進します。
広く国民の皆様のご理解とご支援を頂戴したく、ここに声明いたします。