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第106回会議

東京大学農学部長 林 良博】 


1.はじめに

 本年3月末に「新しい国立大学法人像」の最終報告が公表され、同報告の枠組みに従って、平成16年度から国立大学が法人化されることとなった。残念ながら同報告は、わたくしたち農学系学部長会議が危惧した「行政改革の一環としての法人化」が回避されたとは言い難い。過去2年間、内外に警鐘の声明を発してきた本会議の総意を取り纏める任にあったわたくしは、会長職を辞したことによって責任を明確にするとともに、より優れた新執行部による本会議の発展的な運営のために、以下の喫緊の検討課題を提起することによっても責任の一端を果たしたい。

 

2.農学が管理してきた貴重な国民的財産の将来

 農場・演習林等の附属施設は、貴重なフィールド科学教育研究の場として維持したいという農学の「部局自治」によって、維持されつづけてきたという歴史的経緯がある。しかし後述するように部局自治は、意図的にその弊害のみが学内外から取り上げられた結果、風前の灯火である。加えて、長年にわたる定員削減と急激な運営費削減によって、附属施設をこれ以上維持することに耐えられなくなりつつあるという現状がある。最終報告には、現に利用に供している土地・建物のうち「処分が適当と考えられるもの」を当該大学に出資しない可能性が示唆され、処分した場合に「一定部分については各大学の自己収入」とすると述べられている。これは附属施設の意義を理解しない学外の邪悪な勢力みならず、学内のそれによっても不当に処分される危険性が増大したことを意味する。こうした危険を回避するためには、従来にも増して附属施設の意義を学内外に訴えることに止まらず、いかに貴重な国民的財産であるのかを明確に示すための新たな機軸を打ち出す必要がある。しかも急いで。

 

3.農学にふさわしい「もう一つの評価基準」の確立

 平成16年度の概算要求は6年間の「中期目標・中期計画」として提出されるが、これはその後に予想される「組織評価」を前提として作成されるものである。また7月末を申請期限とした「21世紀COE」は、新しい基準が加味された「個人評価」を主体として審査されるものである。わたくしたち農学は評価自体を避けるものではなく、正当な評価であればこれを歓迎する。しかし適正な評価基準が確立されているとは言えない現実がある。評価基準のうち、教育評価基準の確立が困難であるという点は、農学のみならずすべての分野に共通した問題であるため、全学的な共同作業としてこれを解決する必要がある。一方、研究評価基準については、インパクトファクター等による一面的な評価基準が先行しており、普遍性や専門性だけではなく、個別性、総合性、社会貢献性という農学の特性にふさわしい「もう一つの評価基準」が確立されないと、農学は他分野にくらべて圧倒的に不利な状況に陥る危険性がある。できるかぎり早急に、ひろく学内外に賛同を得られる「もう一つの評価基準」をわたくしたちの手によって確立する必要がある。

 

4.大学の組織・運営におけるトップダウンが農学にもたらす影響

 わたくしたちは、農学部長会議の声明において繰り返し「部局の自律性・自主性」の重要性を訴えてきた。それは大学における教育研究という高度に創造的な営みが、全学的な視点からの統治の一貫性、すなわちトップダウンという運営方式だけではけっして達成できるものではなく、教育研究の各基本単位からのボトムアップを基本としてはじめて達成される営みであるからである。そのためには、法人化後も学長を中心とする役員が、基本的組織の長である部局長と実質的な意思疎通・協議をおこなう場である部局長会議を尊重することが不可欠である。また部局長の任免および教員の人事についても、各基本単位の意思を尊重して行われるべきである。学長のリーダーシップとは、大学構成員のエネルギーを最大限に引き出すことを可能にするネットワーク型運営の道標として機能することによってのみその威力を発揮するものであることを、わたしたちは今後とも訴え続ける必要がある。それに失敗すれば、100年間におよぶトップダウン型経営方式を棄て、21世紀にふさわしいネットワーク型経営に移行することを決断した米国フォード社に冷笑されるに違いない。

 

5.いまこそ高等教育に対する全国民的な支援を得るために

 あたかも宝くじを買うように、採択が申請件数の2割にも満たない「競争的資金」ではなく、申請件数113,000件のうち44,00件が採択される科研費こそ、真の競争的資金であるのは世界的な常識である。科研費が平成14年度に1700億円を超えたことは、その実現に尽力された関係者に深く感謝するものであるが、昨年度比124億円増は新規に創設された21世紀COE182億円に及ばない。日本の高等教育を欧米先進国並みにするというのであれば、思いつきの「競争的資金」の新設ではなく、欧米のように高等教育を基本的には公費でまかなうという体制を構築することである。その面からみると、厳しい国家財政の下で私立大学の平成13年度経常費補助3142億円が平成14年度に55億円増となったことは評価されるが、その増加率は私立高等学校の経常費補助922億円が55億円増加されたことに及ばず、さらに施設整備費補助が逆に11億円減になったという厳しい実態がある。わたくしたちは、いまこそ正常な高等教育の在り方を求めて、全国民的なコンセンサスを得る努力を展開すべきである。 

 


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