【第105回 国立農学系学部長会議 (平成13年10月16日〜 17日, 高松開催)】
1. | 会長挨拶 |
2. | 新しい「国立大学法人」像について(中間報告)に対する意見 |
3. | 協議事項 |
平成13年10月16日
国立大学農学系学部長会議
会長 林 良博
本日と明日に開催される農学系学部長会議は、開催時間のすべてを全体会議にあてるという極めて異例の形態で開催される予定になっております。
これは、その善し悪しは別にして、恐らく日本の文教政策の歴史に残るであろう「大学(国立大学)の構造改革の方針」(通称:遠山プラン)が、前回104回会議の直後に文部科学大臣が公表されたことを一つの契機として受けとめ、慌てふためいて6月以降に検討した事柄ではなく、長年にわたって真摯に検討してきた事柄を、本会議を構成する会員校が全員参加の形態で率直に意見交換したいという役員会の提案を、すべての会員校がお認めいただいたことによるものです。
また9月27日には、文部科学省が設置された調査検討会議が「新しい「国立大学法人」像について」(中間報告)を公表し、10月29日を限度に、その内容に対する意見を広く各界に求めておられます。本会議としても、第105回会議が農学系学部の意見を集約し、その意見を同会議にお送りする絶好の機会であると考えております。
一方9月11日には、地方国立大学長28名の方々が「国立大学地域交流ネットワーク構築の提言−地方国立大学と地域社会の活性化のために」を公表されました。農学は、地域に密着した教育研究を推進してきた国立大学の他分野と同様に、さまざまな課題において地域性を重視してきましたし、今後ともこの視点を強化こそすれ減ずることは決してありません。したがって、本会議は地方国立大学長の方々と、多くの課題において認識を共有するものです。
しかしわたしたち農学は、「一県一国立大学」制度が「きわめて有効で適切な制度」であるか否かについては、さらなる検討が必要であると考えます。本会議は、前回104回会議に発した声明に強調したように、短期的には成果を予測しがたい先駆的な研究や基礎的な研究、社会的需要は少ないものの重要な学問の継承などに果たしてきた国立大学の役割や、学生が経済状況に左右されることなく、自己の関心や適性に応じて、分野を問わず大学教育を受ける機会を確保する上で果たした国立大学の貢献は、今後の国立大学の在り方を論ずる上で決して忘れてはならない視座であると考えております。
こうした視座を意図的に無視し、国立大学の構造改革を専ら業務の効率性向上という行政改革の視点から遂行しようとする勢力に対して、「一県一国立大学」制度が一定の歯止めになるという意図は理解できるとしても、なおわたしたち農学は理想的な教育研究体制を追求するために、さらなる検討が必要であると考えるものです。
残念ながら農学系学部は、すべての都道府県に配置されておりません。現状の限られた資源を有効に活用するためには、都道府県という行政単位に固執するのではなく、特色ある一定の広域地域社会と強力な連携を図るという大胆な構想を実現しなければ、農学系学部をもたない都道府県は救われません。本会議は第105回会議において、「一県一国立大学」制度についても大胆かつ率直な検討をおこないたいと考えております。
「新しい「国立大学法人」像について」(中間報告)は、調査検討会議が約一年間、ほぼ毎週のように委員会を開催されてまとめられたものであり、関係者のご尽力に対して心からの謝意を本会議は表明するものです。しかし、朝日新聞が10月1日付けの社説のタイトルに掲げたように、「これが規制緩和か」と疑わざるを得ない内容が、報告書に含まれていることも事実として指摘しなければなりません。
本会議は、大学の自主性・自律性の大切さに加え、大学の真の自主性・自律性は、その構成単位である学部の自主性・自律性を保証し、構成員のエネルギーを最大限に引き出すことを可能にするネットワーク型の運営体制を構築することによって達成されることを再度にわたって指摘してきました。しかしながら中間報告は、学部長ならびに学部の教員選考など、学部にとって重要な人事を学部教授会の審議を経ることを明確にしてはおりません。
前述の朝日新聞社説は、法人化について「大学の中でさえ関心を持たない人が多いときく。研究室にこもり、社会の中の大学の役割を考えずにいることが、現在の沈滞を生んだのではないか」を指摘しております。こうした批判を真摯に受けとめ、中間報告に対する農学系学部の意見を第105回会議において纏めていただくことを、会長としてお願い申し上げます。
最後に、二十一世紀にふさわしい本会議の名称として、国立大学農学系学部長会議を廃し、全国農学系学部長会議を提案して、会長の挨拶といたします。
以上
平成13年10月17日
国立大学農学系学部長会議(以下、本会議という)は、昨年および本年に開催された会議において「国立大学の法人化」に対する声明を発し、「国立大学の法人化」を専ら業務の効率性向上という行政改革の視点から遂行されることに異議申し立てを行ってきた。
このたび公表された上記の中間報告に対し、本会議はこれまでの経緯を踏まえ、以下の意見を提出するものである。
1.
国立大学の法人化の目的が、国立大学の自主性・自律性を高めることを目的とするならば、学長の選考方法および役員会等への学外者の参画方式については、各大学が個性を発揮するために、もっとも優れた実施方法を採ることを可能にならしめるよう、一律の方式を押し付けるのではなく、各大学の自主的な選択と決定権を認めるべきである。
2.
大学の自主性・自律性は、その構成単位である部局の自主性・自律性を保証し、構成員のエネルギーを最大限に引き出すことを可能にするネットワーク型の運営体制を構築することによって達成されると本会議は考える。従って、「部局長ならびに部局の教員選考方式」については、従来通り、「部局教授会の審議を経ること」を最終報告に明示すべきである。
3.
大学を構成する各部局の自主性・自律性は、その部局を構成する教職員・学生に対して学問の自由と自治を最大限保証することによって達成されると本会議は考える。学問の自由を制度的に支えるものとして、現在教育公務員特例法で保障されている大学教員の身分保障と人事権についてを、公務員型、非公務員型のいずれの場合にあっても、十分に配慮した制度を設計すべきである。
4.
法人化された大学がいかに自主的・自律的な組織であるかは、各大学がいかに個性的な中期目標と中期計画を自主的・自律的に作成することができるかに懸っている。本会議は、「中期目標と中期計画の両者とも、各大学が作成し、文部科学大臣が認可する」制度を、最終報告に明示すべきであると考える。
5.
国立大学が、短期的には成果を予測しがたい先駆的な研究や基礎的な研究、社会的需要は少ないものの重要な学問の継承などを果たすことができたのは、競争的経費ではなく、安定的経費に拠るものである。本会議は、法人化された大学には、競争的観点とは別に、安定的な基盤経費が充実されることが不可欠であると考える。
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