はじめに 学問、科学 研究・教育 先輩からのメッセージ リンク おわりに


(1) 農学は食料生産をはじめ、人類の生存を保障する科学です   

 農学は食料生産をはじめ、衣食住との関わりをベースとし、人類の生存、生活に貢献することを目標とした生物、生命に関する総合科学です。農学系学部は、人類の生存と発展を目標に、生物の生産、保存、食料の加工、貯蔵、流通などに関する自然科学と社会科学の基礎から応用まで幅広い分野を包含する総合科学として発展してきました。農学分野の科学技術の成果を人間の生活と社会の発展に結びつける上で、農業経済系などの社会科学分野の役割は大きなものがあります。
  21世紀においては、農林水産業のみならず、すべての産業が地球環境および資源の有限性を視野にいれた資源循環型の社会をめざさなければならず、農学系学部における教育、研究の果たすべき役割はきわめて大きなものがあります。


海域の富栄養化に伴う赤潮の発生

合鴨農法による無農薬、無肥料の環境調和型農業

(2) 農学は環境調和型の生物機能開発の科学です


 

 

フリーズレプリカ法装置を使った電子顕微鏡試料の作成

附属練習船によるクジラ類の目視調査風景とマッコウクジラ
 人類は化石資源の開発、利用によって今日の繁栄を達成してきました。しかしそれがもとで起こる環境破壊が深刻な問題となり、人類生存の危険も指摘されており、これ以上、化石資源に依存することは避けなければなりません。21世紀のエネルギー資源として注目されているのが、生物資源、バイオマスです。循環型資源である生物資源は地球環境保全の面から最も好ましい資源であり、生物、微生物のもつ機能を開発、利用することにより、有用産物をつくり出すことが可能です。生物種、生物遺伝資源の保全を図るとともに、生物の有する精緻で高度な機能を解明し、生物機能の一層の開発と利用を図ることは、人類の持続的生存のための限りない可能性を示しています。このように農学は環境調和型の生物機能開発の科学です。


(3) 農学は人類の生存を視野に入れたグローバルな資源環境科学です

 20世紀は温暖化、酸性雨、熱帯林破壊、海洋汚染、大規模開発など地球生態系破壊の顕在化した時代であり、21世紀は地球生態系の保全と再生の時代としなければなりません。そのためには、地球の自然生態システムの解明とその保全、再生、修復に関係する環境科学の発展が必要です。農学は広大な耕地、山林、海域を対象として、生物資源開発とともに、環境生態系の保全、修復に関する科学、技術の発展を担ってきました。21世紀中頃には世界人口が100億人に達すると予測されており、食料、環境問題の一層の深刻化が危惧されています。21世紀における持続的生存可能な開発と環境保全のためには、農学の果たす役割はますます重要であり、農学に関わる科学者、技術者の責任が求められています。農学は人類の生存に必要な食料をはじめ、水資源、森林、海洋資源の蓄積、確保と自然環境の保全、再生との調和を図る資源環境科学です。グローバルな視点と同時に地域の特性を把握した研究も重要です。

シベリア森林の成長調査
(シベリア森林研究所との共同研究)

(4) 農学は生命科学を採り入れ、発展しつつある学問です

 近年の生命科学の発展は、生命現象の解析手段として、組み換えDNA技術、細胞の形質転換技術および初期胚の操作技術、さらに細胞融合法や核移植法等の新たな操作的実験法によって、生命の重要な構成要素の働きを実験的に明らかにし、生物現象における普遍的な原理を明らかにしつつあります。農学分野では、人類の生存を支える食糧を確保するために、積極的に生命科学を採り入れています。植物の細胞からは、個体を再生することが比較的容易にできる利点を活かして形質転換技術が進歩し、収量や品質の向上、耐病性、耐虫性、ストレス耐性のための遺伝子を導入した植物が作出され、一部は実用化段階に入っています。また、家畜への有用遺伝子の導入や魚類をはじめとする海洋(水圏)生物の遺伝子操作も行われ、21世紀の食料確保への努力がなされています。このように農学は生命科学を積極的に採り入れて、発展しつつある学問です。


ピンク色の花弁に斑点があるスカシユリ品種(モントレー)とその遺伝子地図。→は花弁をピンクにする遺伝子の位置

(5) 農学は豊かな人間性を醸成する学問です。

21世紀における人々の生活はますます多様化し、人間性回復のために自然や動物との関係を深め、健康を重視し個性化とゆとりを求める時代となることが予測されます。そのためには、生物的多様性を重視した豊かな森林、牧場、田畑、湖、河川、海洋を維持、創生する必要があり、農学の果たす役割は重要です。心を癒してくれる愛玩動物や観賞用の植物、魚や森林レクレーション、森林浴などへの関心も高まっています。また、自然と調和した公園、住宅、街路づくりや動物園、植物園、水族館などの役割も一層重要となります。農学は、こうした豊かな人間生活を保障する学問です。

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